エイズの発症と起源
エイズウイルスの起源
エイズウイルスのヒトへの感染は西アフリカから拡大した。学者によると、チンパンジー特有の免疫不全ウイルス(サル免疫不全ウイルス、英名称SIV)に感染したチンパンジーを狩猟し、そのチンパンジーを食したことで免疫不全ウイルスがヒトの体内に取り込まれたことが拡大の起源だとされている。
1959年、エイズウイルス1型(HIV-1)のヒトへの感染がコンゴ民主共和国の男性に始めて確認された。
この男性が具体的にどのように感染したかは不明だが、男性の血液中の遺伝子の分析結果によって、1940年代末から1950年代初めにかけて何らかの単一ウイルスからエイズウイルスに感染したことが分かった。
また、エイズウイルスは1970年代半ばから同年代末のアメリカでも確認されている。1979年から1981年にかけては、特異な型の肺炎や癌がロサンゼルスやニューヨークに住む同性間で性交をした男性達の中で確認された。彼らの症状は健康な免疫システムを有するヒトには稀であったことから、彼らの感染経路が問題視されるようになった。
1983年、科学者らによって後天性免疫不全症候群の原因が解明され、感染源となるウイルスがエイズウイルスであると特定された。1999年には、ヒトと免疫不全ウイルスに感染した西アフリカに生息するチンパンジーとの接触が、世界で確認されるエイズウイルスの大半を占めるエイズウイルス1型の感染起源であるとされた。
世界的感染拡大のメカニズム
エイズウイルスが水、食べ物、あるいは空気を介して伝播することはない。
エイズの感染経路で最も知られているのは感染者との避妊具なしの性交で、これは世界のエイズ感染の約75%を占める。
他にも、感染者に使用した注射針等の医療器具を非感染者にも適用することでも感染する。また、エイズに感染した女性の妊娠及び出産過程、授乳によって母親から子へ感染する可能性もある。
エイズウイルスの起源を考えても想像ができる通り、エイズ感染拡大が最も懸念される地域はアフリカである。
事実、全エイズ感染例の約70%はサハラ砂漠以南のアフリカで報告されたものである。また、エイズに関連する病が原因で命を落とす例が最も多く報告されているのも同地域で、2011年世界で報告されたエイズ関連の死者数が170万人なのに対して、サハラ砂漠以南のアフリカで報告された死者数は約120万人である。
この問題を貧困問題に言及することなしに語ることはできまい。近年でその状況は幾分か改善されたにしても、アフリカの地域の貧困は未だ深刻である。
この経済的要素に加え、男性中心社会や地域内での貧富の差が、女性が時として暴力的な性行為の被害者になる要因であり、ひいてはエイズの感染拡大につながる。現地で女性を守るセーフティネットが十分に流布していないのもまたエイズ拡大の防止が足踏み状態である要因である。
しかし、経済的な富を求めて、あるいは終わりのない内戦の被害を免れるために、母国を去ってヨーロッパやアメリカ等いわゆる先進国で外国人労働者あるいは難民となるアフリカ人の数が増えているのも確かである。
これを踏まえると、どうして遠いアフリカ起源の病原体が日本でも発見されるようになったのかが理解できる。グローバル社会の難点が人類を脅かしている証拠がここにしっかりと見て取れる。